
あなたが愛着を持って使用しているロゴマークや店舗名、商品名。
ある日、そんなロゴやネーミングにそっくりなものを発見した場合。
さて、どういう対応策を取るといいのでしょうか。
”入口”は、あなたに権利があるかどうか
『たむきょんさん!私が2年間、継続してネット通販している商品名”ダビデ肩たたき棒”が、別のネット通販サイトで、全くの他人に使われていることを発見したんです!』
『それは穏やかじゃないですね。ところで、えりなさんは、”その商品名は私のだ!”と言えるだけの正当な権利は、あるのでしょうか?』
『”正当な権利”??
2年間、販売し続けている、という、いわば”既得権”みたいのでは、ダメでしょうか・・?』
『よほど日本中の消費者に、”ダビデ肩たたき棒”と言えばえりなさんの販売するもの、と認知されているなら話は別ですが、そうでもなければ、”既得権”というのは、主張できないと私は考えます。あくまで、商標権のように、日本の省庁が正式に認めた権利をお持ちかどうか、が大切だと考えます』
『そういうことなら、一応、先月、友人に薦められて、”ダビデ肩たたき棒”の名称で、商標登録の申請は終わっています』
『なるほど、それなら良かったです。まずは、”商標登録”が、自社の商品名・サービス名・ロゴであると主張するための、”入口”となります。弁理士だから、商売のために、そう言っているのでは決してなく、今回のえりなさんのような模倣の相談をしてくださる全ての相談者に、共通して、商標登録は最初の入口です、とお伝えしています』
(もし商標登録のご相談をいただける際は、気軽にご相談ください)
明らかな真似?それともたまたま?
『では、商標登録に向かっている、ということを前提として、次に、確認いただきたいのは、ライバルの行為は、明らかな真似でしょうか?
それとも、実際は、だいたい同時期に販売開始をし、たまたま商品名が似てしまったのでしょうか?』
『それは、明らかに真似です!だって、私が2年前から販売していて、その頃は、似たような商品名のものは、ありませんでしたから。1ヶ月前ぐらいから、急に同じ商品名で販売されるようになったんです。
私は2年前から継続して販売していますからね!』
『なるほど。そうしたら、きっと明らかな真似であり、多少なりとも、自身のやっている行為が、間違っているかもしれない、ということは、相手は知っての上、かもしれませんね。
このとき、だいたい同時期に相手が販売を開始している、とか、たまたまである可能性が高い、とかの場合は、そういう背景も考慮した上で、対応策を柔軟に検討するといいと私は考えます。
商標権を持っているから(もうすぐ持つから)、何でもかんでも模倣だ!と考えるのは、少し偏った考え方だと思うんです』
ガチンコの喧嘩をするデメリット
『相手が明らかに模倣している場合は、商標権を取れたアカツキには、商標権侵害であることの”警告”なんかを送ってしまっていいんですよね?』
『うーーん、私は相談者様にそれを普段あまりお薦めしていません』
『どうしてですか?だって、商標権を持つ、ということは、他人にそのロゴやネーミングを使われないようになる、ということを意味しているんじゃないんですか?』
『実際は、即座にでも、そのロゴやネーミングの使用を中止するよう、要求できるだけの強い権利が、商標権です。
しかし、逆の立場に立ったら、どうでしょうか。あなたが”ダビデ肩たたき棒”を買って、使ってみたら、とても素晴らしい商品だと感じたとしましょう。
そして、その”ダビデ肩たたき棒”を、ちょっとした出来心で、自分でも商品づくりして販売してみた。
そしたら突然、オリジナルの販売元から、物々しい警告状が届いて、直ちに商品名の使用を辞めるよう、警告が書いてあった。
どんな気持ちになりますか?』
『びっくりしますよ、きっと。そして、そういう強いやり方について、オリジナルの販売元に対して、少し残念な気持ちを抱くかもしれません。
もう、その商品は、使いたくない、とファンでも無くなってしまうかもしれません』
『そうですよね。場合によっては、SNSなどで、”こんな警告状が来た”と公表したくなるかもしれませんよね。
今は、個人が簡単に多くのかたに向けて情報発信できてしまう時代です。だから、むやみに敵は作らないほうがいいんです。
私にも、”こんな警告状が届いたんですが”という相談が、過去何件かありました。その中には、明らかに悪徳な専門家と組んで、悪徳な警告を繰り返していると見て取れる警告状も、あったのは事実です』
まずは、穏便な対応策を講じましょう
『じゃあ、もうすぐ商標登録されるかもしれない私の商品名が明らかに模倣されていても、見て見ぬフリをしなきゃいけないのでしょうか・・?』
『いいえ、商標権というのは、”そのロゴやネーミングを、自社(自身)だけで独占できる”という強い権利です。
そういう権利を取得しても権利行使を一切しないのであれば、商標を取る意味は、薄れてしまいます
(他人から権利行使されない状態となるため、権利行使をしなくても商標取得の意義はあります)』
『それでは、どういう対応策がお薦めなのでしょうか?』
『隣に住むかたに、ゴミの出し方について、少しだけ苦情をするというか、何かお願いをするような状況を、いつも思い浮かべるといいと存じます。
例えば、以下のような穏便な解決策を、お薦めすることはあります』
- まずはお手紙を書き、相手の行為を理解した上で、こちらの悩み・想いを丁寧に書く
- 商標権をライセンス(使用許諾)するような、金銭的な解決策も模索する
- この分野では使わないでほしい、一方で、この分野であれば問題ない、と”住み分け”を提案する
(ケースによるので、気軽にご相談ください)
悪質な行為が継続される場合の対応策
『なるほど。それで、こちらは丁寧な対応をして妥協案などを提示したにも関わらず、全く音沙汰がなかったり、むしろ逆ギレされたり、無視して販売を継続されたり、という場合は、どうしたらいいでしょうか?』
『うーん。忘れてはならないのは、商標権をそのロゴやネーミングであなたが取得した(する)以上、そのロゴやネーミングは、本来は、あなたしか使用できない、という事実です。
これは、相手を理解はしながらも、特許庁が認める権利ですね。
だから、お手紙などでも、必ずその事実はやんわりと触れなければならないとは私は考えます。
それでもなお、相手が無視したり、逆ギレしたりした場合、それは、”毅然とした態度”を示してもいいかもしれません。例えば、商標権侵害に関する警告状を内容証明で送付する、とか、それでも無視された場合、商標権侵害は立派な犯罪行為ですので、刑事告訴をするのもやむなし、ですね。
ただ、これらは、確かに悪質であり、話し合いの余地がないような場合の最終手段だとお考えいただくのがよろしいと存じます』
『わかりました。まとめになりますが以下の手順で、検討してみます!』
- まず対象のネーミングの商標登録を待つ
- 何を許せて、何を許せないか、妥協点はあるか、自身の中で方針を決める
- その上で、相手に、丁寧に手紙などを書く。その中で”商標権”を持っている点には必ず触れる
- 例えば有料でも商標権ライセンスなども提案する(その場合、品質が低下しないよう、策を講じる必要はある)
- 無視をされるような場合、警告状、その後、刑事告訴も検討する
執筆:田村恭佑
(認知心理学×弁理士×経営コンサル)