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今治タオル…外国人実習生の誤報とブランドへの信頼低下

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令和元年6月24日(月)に、NHKにて放送されたドキュメンタリー番組は、今治タオルの工場にて、不当に働かされているとされる外国人実習生の実態、というもの。報道や、その後のSNSでの誤報などを受けて、ブランドへの信頼低下を余儀なくされてしまっています。ブランド価値の危うさと、未然に防ぐ対策などについて、記事にしたいと考えています。

令和元年6月24日(月)に、NHKにて放送されたドキュメンタリー番組を受けて、SNSなどで誤報なども飛び交い、炎上してしまっています。

内容は、今治タオルの工場にて、不当に働かされているとされる外国人実習生の実態、というもの。

私は、弁理士そして経営コンサルタントの立場として、相談主様の、ブランドが生まれる瞬間、そして、育っていく(=価値が高まっていく)過程を日頃、目にさせていただいております。

ブランディングのモデルケースと言っても過言ではない「今治タオル」が、NHKの番組や、その後の誤報などを受けて、ブランドへの信頼低下を余儀なくされてしまっています。

ブランド価値のもろさと、未然に防ぐ対策などについて、記事にしたいと考えています。

 

NHKドキュメンタリー番組の概要

『6月24日(月)に放送された、NHKのドキュメンタリー番組って、どういう内容だったのでしょうか。』

『私は見られなかったのですが、日本の縫製工場(今治タオルの工場)で働く、ベトナム人の実習生の、過酷な労働環境を番組にしたもの(NHK「ノーナレ」)だったそうです。
番組の中では、過酷労働が1つの原因となり、脳出血をして意識不明のまま入院中のベトナム人のかたもいる、という報道がされたそうです』

6月24日ノーナレWebページ

↑当番組の公式ページはこちらから↑
(NHK公式Webサイト「ノーナレ」6月24日より引用)

 

Twitter等で誤報が出回ってしまった

『今治タオル、と特定されて、こういう社会問題を露呈するような報道ですと、なんだかネットなどで物議をかもしそうですね・・』

『その通りですね。実際、以下のような事態になってしまったようです・・・』

  1. 「どの工場で、過酷労働が起こっているのか」の犯人探しが始まった
  2. 映像に映っていた工場から、Googleストリートビューなどを頼りに、看板「森清タオル」が発見され、その工場が犯人ではないか、と推測が広がる
  3. しかし、森清タオルは、工場を貸しているに過ぎず、その推測が誤報であることが判明
  4. しかし、Twitterなどで、推測が一気に拡散されてしまい、森清タオルにも、問合せや誹謗中傷が集まってしまった

 

 

種々の声明から見る事実

『森清タオルが該当する工場ではないことは分かったのですね。事実をまとめると、どういうことなのでしょうか?』

『まず、誤報被害を受けた森清タオルを経営する企業は、以下のように発表をしています。

(1)森清タオルによる公式な発表

  • NHK放送後、当社に問合せを受けている
  • しかし、当社は技能実習生の受け入れはしていない
  • 従って、該当する工場とは無関係
  • Googleストリートビューの画像は、数年前のものであり、現在は看板も撤去されている

とても穏やかな釈明文章が印象的でした。

(2)NHKによる公式な発表

次に、誤解を誘発するような放送をしてしまったNHKも、「ノーナレ」のページ内で以下のような発表をしています。

  • 放送後、森清タオルが該当の工場ではないか、と中傷されてしまっています
  • しかし、番組で取り上げた工場は、森清タオルではありません

こちらは、誤解を誘発する報道をしたにも関わらず、少し説明足らずな印象を受ける発表文章でした。

(3)今治タオル工業組合による公式な発表

3番目に、今治タオルを製造する全ての工場が加盟している工業組合による発表は以下の通りです。

  • 今回の報道を、社会的・道義的責任という観点から重く受け止めている
  • 意識不明の実習生のかたの1日も早い回復を祈っている
  • 報道にあった工場は、森清タオルの工場ではないことを確認済み
  • しかし、今治タオルを製造する工場の下請け工場であった
    (その工場は、今治タオル以外の下請けもしている)
  • 実習生の労働環境その他コンプライアンスについて、組合企業において、一層注意・徹底をしたい

非常に丁寧に、かつ、これからの信頼失墜の拡大を防ぐために、入念に練られた文章であるという印象を強く受けました』

三者のうち、今治タオル工業組合は、非常に重厚な”説明”を行っている感がありますね・・』

『そうですね。今回の記事の本題が、その点です』

 

「今治タオル」ブランドの信頼

『え?どうして、今治タオル工業組合だけが特に、重厚な説明をWebに掲載しているのでしょうか??』

『ひとえに、以下2つへの強い想いからだと考えます(大義名分はもちろんありますが)

  1. ”今治タオル”というブランド価値やブランドへの消費者からの信頼を落とさないため
  2. 工業組合に加盟する104社への悪影響を最小限に留めるため

もし、今治タオル工業組合が、今回のような重厚な説明を行わなかった、もしくは行うまでにかなり時間を要してしまった、場合、どういうことが想像されるのでしょうか?

『消費者や、それ以外の国民(もしくは海外のかたも)は、報道だけを信じて、そして、それ以降のTwitter等での盛り上がりや怒りを見て、

”今治タオルって、品質は良いのかもしれないけれど、社会的には褒められたブランドではないのかもしれない。そういうタオルをこれからも愛用していいのか迷う”

と感じてしまうかもしれません。

今日まで、ものすごい労力とお金と時間をかけて、104社で力を合わせて、育ててきた、信頼を集めてきた”今治タオル”というブランドは、たった1度の報道で、あっという間に、そのブランド価値を落としてしまいかねないのです。

 

それだけ、ブランディングというのは、もろいものなんです。

”ブランドへの信頼は、育てるのは100年、失墜するのは一瞬”

と言っても過言ではありません。

 

どうしたら今回のような事態を防げたのか

(1)今治タオル工業組合のすべきこと

『一瞬で信頼が失墜してしまうほど、ブランドがもろいもの、というのは理解できました。

今治タオルは、失墜を少しでも防ぐために、どうすべきだったのでしょうか?』

今の時代も大きく考慮する必要がありますね。
それは、

”現代の消費者は、商品の品質だけではなく、その企業の社会性を大きく評価している”

ということです。例えば、海や川の環境を破壊するプラスチック製のストローではなく、環境を破壊しないストローがカフェやレストランで使用され始めています。そういう社会的な活動を、消費者は評価するになってきているんです。

今治タオルの件で考えると、以下が、ブランドを守るために、大切なのかもしれません。

  1. 透明性の確保、隠蔽を絶対にしない
  2. 品質チェックを絶対に怠らない、厳しく行う体制作り
  3. 一部の縫製などを下請けに発注する時の、厳しいルール作りと法令を順守させる契約
  4. 働き方改革などの労働環境の監視、ルール作り
  5. 環境破壊行為の有無の監視、ルール作り
  6. その他全ての工場で、法令を遵守する文化作り

起きてしまったことは、もう戻りません。しかし、上記は、”後悔”で終わるものではなく、”これから”しっかりと目指していけるものです』

(2)報道機関のすべきこと

『私、少し報道の在り方についても、問題があったのではないか、と感じるのですが、ブランド価値・信頼と、報道の在り方については、たむきょんさんはどう考えますか?』

『私もえりなさんと同感です。曖昧な報道をしてしまうと、その報道による影響力は甚大であり、1つのブランド、1つの企業を簡単に潰してしまう可能性もあるんだ、ということを、報道に携わる全ての方々は、ご自覚いただいたほうがいいと存じます。

とは言え、ドキュメンタリー番組ですから、リアルに、社会問題に切り込む必要は当然あるわけですね。これまで、隠蔽されてきた、もしくは実際に当事者たちが問題意識を持たずに過ごしてきたわけですから、その是非を、社会に問いかける姿勢も、やはり報道に携わる人々には、必要なマインドかと存じます。

その上で、以下の点で少なくとも、報道機関は、その在り方を真摯に見つめることが肝要かと思います。

  1. その報道の結果、視聴者はどういう憶測をするのか、どういう犯人探しをするのか、を明確に予測する
  2. その上で、不十分な情報提供がある場合は、更なる情報収集を行う
  3. ドキュメンタリー番組であればなお更、制作に携わったかた以外の客観性のある組織により、内容の是非、曖昧性などのチェック体制を持つ
  4. 社会問題を提起したいことが1番の目的であれば、特定の企業や組合を批判するような内容になっていないかどうか、慎重に確認をする
  5. それでも、Twitter等のSNSで、予想以上、または予想外の反響になってしまう可能性はあるので、それに対する補足説明やTVでの釈明を、柔軟に、重厚に、行う心構えを持つ』

 

 

執筆:田村恭佑
(弁理士×経営コンサル×認知心理学)

記事をお読みくださり、ありがとうございます。

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みぎのうで知財事務所(代表 田村)

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