
私よりも、メジャーリーグに詳しく、イチローの経歴に詳しいかたはたくさんいるでしょう。
イチローの引退を受けて、何か動かなければいけないような、動きたいような、今の気持ちを綴っておかないといけないような、強い衝動に駆られ、筆を取っています。
私は、イチローの引退会見に、ある種の”違和感”を覚えました。質問にストレートに答えているような、どこかで、この日を何か月も前から、イメージトレーニングしていたような。
きっと後者の感覚は、間違っていないでしょう。
今回、イチローの引退会見に、彼が成し得なかった3090本目の安打以上の価値を見た、という内容を記事にします。
※「イチロー選手」と敬意を込めたいところですが、「イチロー」は皆にとって「イチロー」であり、この記事では失礼ながら単に「イチロー」と称させていただきます
質問1つ1つを、打席に立つような表情で、受けていた
まず引退会見の映像で、とても印象的だったのが、「質問から質問の、切り替わりの時の表情」でした。
例えば左の記者の質問に答え終えると、さっと、次の質問の記者に目をやり、片時も、無防備な表情を見せませんでした(お腹がすいたから帰ろう、と言葉を発するまで)
イチローは、公式戦2試合で、相当な疲労はあったと思いますが、すでに、何日も前から、ひょっとしたら、この引退会見を、ある意味「最後の全力の公式戦」のように位置付け、この日を待ち望んでいたのではないでしょうか。
私はそう確信しています。
何か月も前からイメージトレーニングしていたような回答があった
ネットなどでも称賛されていますが、1つ1つの質問に、飾ることなく、ストレートに、また時々ジョークやツッコミを交えながら、朗らかに回答されていましたね。
しかし、いくつかの質問において、質問で聴かれていることと、少し違う方向へ、熱く、それでも静かに、語るシーンがありました。
私がかすかに感じた違和感は、それでした。
何度か映像を見ているうちに、
『イチローは、何か月も前から、今日の引退会見で、どのようなことを語ろうか、頭の中で、絶えずイメージトレーニングしていたのだろう』
という考えにたどり着きました。
イチローの、これまでのテレビのインタビューへの応答などを思い出すと、不思議なことではありません。
ある種の「カッコつけ」な精神があり、考えが本当にまとまった時に、テレビで語り、どの内容も、とても洗練された、考え抜かれて、経験からくる、確固たる考えでした。
引退を決意する、ということは、「試合で、チームの勝利に貢献できなくなったから」ですが、それでもイチローが、何かに最後に確かな貢献をしたい、という強い気持ちから、あの引退会見が、計画されたのだと私は思っています。
だから、何度も何度も、どんなスピーチをしようか、頭の中で、考え、それが、おそらく、記者からの質問で、網羅されるであろうから、あえて、イチローは、冒頭でのスピーチを2分程度とシンプルにし、残り1時間20分を、たっぷり、記者の質問への回答に当て、その中で、考え抜いた、大切なメッセージを、込めたのだと思います。
特筆すべきイチローの3つのメッセージ
(1)中身のある人間になろう
イチローは質疑の中で、「今日のあの球場での出来事」を見たら、もう思い残すことはない、ということを2、3回、語っていました。
何度もその意味を考えました。
まず、「今日のあの球場での出来事」とは、4打数0安打にも関わらず、8回で途中交代を告げられた際の、スタジアム中の、スタンディングオベーションと大歓声、このことを指していると思います。
イチローは、マリナーズの勝利に貢献するプレイで、本当は称賛を受けたいし、そこに、選手としての価値を感じてほしい、と常日頃、考えているでしょう。
しかし、あの時の大歓声は、勝利への貢献というよりも「イチローの存在そのもの」への拍手喝采でした。
おそらく、この光景は、彼にとって、有難くも、本心では、非常にもどかしい、悔しい瞬間だったのではないでしょうか。
また、菊池雄星(マリナーズ新加入の投手)が、泣きじゃくって、イチローとハグしたことについて、イチローは、「しっかりやれよ」とエールを送っています。私は、この言葉が、とてもシンプルであり、かつ、本質的な一言だと感じました。
つまり、5回2アウトで、勝利投手目前で交代させられているようでは、やっぱりまだまだだよ、とハッパをかけたのだと思います。
そして、人から、拍手を受けたり、評価されたりするためには、まず、『中身のある人間』にならなければならないんだよ、という励ましだったように感じました。
イチローは、「アメリカの人たちは、結果を出した選手を応援してくれる。シビアな所がある」とも言っていました。
この言葉にも、メジャーで生きるかどうか、は関係なく、とにかく、
「自分自身が、まず中身のある人間を目指そう」
というメッセージが込められていたと感じます。
(2)自分の過去更新を繰り返そう
イチローは、「オリックスでレギュラーになるための、2~3年間は、とても楽しかった。それ以降は、プレッシャーとの闘いだった」ことを吐露していました。
また、「少しずつの積み重ねでしか、自分を超えられない」とも言っていました。
他人の評価や、ライバル選手、ライバルチーム。
これらと比較して、噴気したり、目標設定をするよりも、「昨日の自分、去年の自分を、超えていくこと」に価値を見出そうと、というメッセージを見て取りました。
イチローは、毎年毎年、シーズンオフに、自分のバッティングフォームを振り返り、少しずつ修正して、次のシーズンを迎える、という特集を見たことがあります。たとえ首位打者を取った年でさえ、です。
だから、だいたいシーズンの初め頃は、打率が低いんですよね。トライアンドエラーを繰り返しているんでしょう。
それでも、ちゃんと、軌道修正をして、打率を上げていきます。
これこそが、イチローの「昨日の自分、去年の自分を超えていこう」という飽くなき姿勢の表れだと思います。
(3)自分の衝動や本能に、素直になろう
イチローは、
「夢中になれるものを見つけよう」とか、
「成功するかどうか、は関係なく、やりたいかどうか。やりたければ、早くやったほうがいい」
ということを、会見で言っていました。
オリックス時代、周りから後ろ指を指されても、自分の決めた練習や、どのコーチと練習するか、など、自分のこだわりに忠実に従い、それを実践し続けてきた、というのを、オリックス時代の報道で聴いたことがあります。
記者から、「我慢していることはありましたか?」と質問され、
「我慢ができない人間だから、やりたい練習は、とにかくやっていた。我慢はしていない」
と答えていました。
ポロっと最後に、「元気なうちに」トライしよう、とも言っていました。
イチローからの3つ目のメッセージは、「若いうち、元気なうちに、どんどんやりたいことにトライしよう」ということだと受け取りました。
次は、草野球なんかをやりたい
最後に、「次は、草野球なんかをやりたい」という言葉の意味をずっと考えていました。
「日本で、プレイしないのですか?」という質問に、ちょっと言葉を濁しながらも、「しない」と断言していました。
次にやりたいのは、「草野球」だと。
これの意味が、少し分かった気がします。
イチローは、オリックス時代からメジャー時代まで変わらず、
「自分の1つ1つのプレイは、常にファンから見られている」と自覚して、プレイスタイルを追求しているそうです。
会見でも、「人に喜んでもらうために、プレイしている」と言っていました。
イチローが、レギュラーを取るまでの2,3年間が楽しかった、というのは、その段階は、まずは、「補欠から、舞台に上がる準備」であり、ファンのため、や、求められるプレイをする、というプレッシャーが、なかったのかもしれません。
しかし、レギュラー以降は、ずっと、「ファンが求めるイチローを追求」した部分もあったと思います。
そこで、「草野球をやりたい」というのは、誰かの求めじゃなく、自分の好きな野球を、好きなようにやりたい、という気持ちの表れではないでしょうか。
「カッコつけ」のイチローらしい、言葉ではないでしょうか(^∀^)
26年間(日本8年間、メジャー18年間)、本当にお疲れ様でした。
イチローさん、やりたいことを、たくさんやってください!!
執筆:
田村恭佑
(経営コンサルタント/人間関係メンター/弁理士)
↓イチローの引退会計のVTRは、こちら(朝日新聞社)
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